小倉蒼蛙句集『優しさの手紙』一句鑑賞
小倉蒼蛙句集『優しさの手紙』一句鑑賞

ステージ4の肺がんから現代医学の力で生還。役者としても蒼蛙(そうあ)の名で活躍する小倉さんを応援し、全国俳人からの一句鑑賞を掲載します。(2025/月3月20日)
人の子を我が子となして初芝居 蒼蛙
普段、私たちは他人の子を見て愛らしいと感じることはあっても、そこに本当の愛情を抱くことはない。その愛情は、本来は自分の子に向けられるべきものであり、血のつながりや共に過ごした時間によって育まれるものである。
初芝居という新年の特別な舞台の中では、他人の子であってもまるで自分の子のように感じられる瞬間があるのだろう。
その中で〈なして〉という言葉には、この子が真に我が子であるはずはないという理性と、それでもこの子が我が子のように思えるという感情が交差している。この曖昧さに人生に根ざした役者としての生き方を感じさせる。その〈人の子〉に児童時代にはエキストラとして活動し、その後児童演劇研修所に入所した筆者自身を重ねているようにも感じられる。この〈人の子〉もいずれまた別の人の子を我が子となす日がくるのだろう。
蛙多楓太(あたふうた)/総合文芸同人誌『Rich』同人(2025/04/23)